働き方改革

柔軟な働き方は、時間ではなく場所から手をつけてください。

2026.08.09
柔軟な働き方は場所から始める

柔軟な働き方を考えるとき、多くの会社が時間から手をつけます。

出退勤を自由にする。

フレックスタイム制を入れる。

気持ちはよく分かります。

ただ、順番が逆かもしれません。

時間は固定して、場所を自由にする。

今日は、この話をします。

そして先にお伝えしておくと、サービス業の会社は、もう半分は正解にいます。

柔軟な働き方は、時間と場所に分けて考えます。

柔軟な働き方といっても、中身はいろいろです。

何でもかんでも自由にすれば成果が上がる、というものではありません。

整理するときの軸は2つです。

時間と、場所です。

この2つを分けずに「柔軟にしよう」と考えるから、話がぼやけます。

まず、分けてください。

4つの箱のどこに、自社があるでしょうか。

縦軸に時間、横軸に場所を取ります。

それぞれ「固定」と「自由」で切ると、箱が4つできます。

朝9時から夕方6時まで、必ずオフィスに出社する。

これは時間も場所も固定の箱です。

いつ働いてもいいし、どこで働いてもいい。

これは両方が自由の箱です。

在宅勤務は、時間は決まっているけれど場所は自由、という箱に入ります。

逆に、フレックスタイム制を入れているが出社は必須、という会社もあります。

時間は自由で、場所は固定の箱です。

自社がどこにいるか、まず当てはめてみてください。

そのうえで、どちらに動かすかの話になります。

時間と場所を同時に自由にすると、効果が消えるという研究があります。

ここで、参考になる研究があります。

チリで行われた調査です。

2020年11月と2021年5月の2回にわたって同じ人を追いかけ、209人を分析しています(Yeves, Bargsted & Torres-Ochoa, 2022, Frontiers in Psychology)。

結果は、こうでした。

勤務時間を柔軟にすると、仕事の過負荷は下がります。

過負荷が下がれば、メンタルヘルスにも良い影響が出ます。

ところが、在宅勤務と組み合わせた人では、その効果が消えました

時間の自由と場所の自由を同時に与えると、時間の自由がもたらすはずの効果が打ち消されたのです。

もちろん、この研究には限界があります。

209人という規模ですし、コロナ禍の急な在宅勤務が前提になっています。

日本の会社にそのまま当てはまるとは言えません。

それでも、示している方向は納得できるものです。

両方を同時に自由にするのは、良いことの足し算にならない。

ここは押さえておく価値があります。

在宅勤務がやめられていく理由は、場所ではなく時間にあります。

在宅勤務を縮小する会社が増えています。

国土交通省の調査では、雇用型テレワーカーの割合は24.6%です。

前年度から0.2ポイント減って、減少は下げ止まりつつあります(令和6年度テレワーク人口実態調査)。

一方で、週1日から4日というハイブリッドの形は広がっています。

つまり、全部やめたわけではありません。

「在宅勤務は効率が悪い」

そう言われることが増えました。

ただ、悪いのは場所でしょうか。

厚生労働省のテレワークガイドラインを見てください。

働く人が感じている課題の1位は「仕事と仕事以外の時間の切り分けが難しい」ことです。

2位は「長時間労働になりやすい」ことでした(テレワークガイドライン)。

どちらも時間の問題です。

仕事の途中で家のことをしてしまう。

誰も見ていないので、少しサボってしまう。

逆に、終わったあとも家に仕事道具があるので、夜中に少しだけ手をつけてしまう。

これが積み重なると、いつからいつまでが仕事なのかが分からなくなります。

在宅勤務がうまくいかない会社は、場所を自由にしたことが問題なのではありません。

場所を自由にしたときに、時間まで一緒に緩めてしまったことが問題です。

フレックスタイム制を入れている会社は、7.2%しかありません。

時間を自由にする代表的な制度が、フレックスタイム制です。

ただ、実際の導入率は高くありません。

令和6年就労条件総合調査では、フレックスタイム制の導入率は7.2%です。

1年単位の変形労働時間制が32.3%、1か月単位の変形労働時間制が25.2%ですから、かなり少数派です(令和6年就労条件総合調査の概況)。

日本の会社の多くは、時間を固定して運用しています。

そして、それは遅れているということではありません。

フレックスタイム制を入れるなら、コアタイムの設計が要ります。

必ず働いてもらう時間帯です。

ここを短くしすぎると、生活リズムが崩れる人が出てきます。

かといって長くしすぎると、制度の意味がなくなります。

さらに、労使協定も必要です。

清算期間が1か月を超える場合は、労働基準監督署への届出も要ります。

制度としては、決して軽いものではありません。

入れるなとは言いません。

ただ、柔軟な働き方の第一手として選ぶものではない、と考えています。

サービス業は、すでに半分は正解にいます。

ここが、今日いちばんお伝えしたいところです。

サービス業や店舗を持つ会社は、シフトで動いています。

何時から何時まで働くかが、はっきり決まっています。

「うちはシフトなので、柔軟な働き方なんて無理です」

そうおっしゃる経営者の方は多いです。

でも、見方を変えてください。

時間が固定されているというのは、この話でいえば正解の側です。

在宅勤務の会社がいま苦労しているのは、まさにそこが崩れたからです。

サービス業は、最初からそこができています。

残っているのは、場所のほうだけです。

場所を自由にするのは、在宅勤務だけではありません。

場所を自由にする、と聞くと在宅勤務を思い浮かべます。

「うちは店舗だから無理です」

そう言われます。

そのとおりです。

現場がある仕事で、在宅勤務は現実的ではありません。

ただ、場所の自由には他の形があります。

たとえば、事務所の座席をフリーアドレスにする。

毎日同じ席に座らなければいけない、という状態をやめるだけでも変化は起きます。

たとえば、複数店舗があるなら、応援や交流で別の店舗に入る機会をつくる。

同じ場所に固定されないというだけで、見えるものが変わります。

そして、もうひとつ有効なのがOff-JTです。

職場を離れて、外で研修を受けることです。

日本の会社はOJTが中心で、職場の中で先輩から教わる形が多くなっています。

令和6年度の能力開発基本調査では、Off-JTを実施した事業所は73.8%でした。

ただ、そのうち「正社員のみに実施した」が42.6%を占めています(令和6年度能力開発基本調査)。

パートやアルバイトが多いサービス業では、外に出る機会が正社員に偏りやすいということです。

Off-JTは、場所を動かす取り組みでもあり、教育の取り組みでもあります。

柔軟な働き方という面からも、人材育成という面からも効きます。

在宅勤務ができない会社ほど、ここは検討する価値があります。

いちばん難しいのは、自分の時間を自分で固定することです。

最後に、自分の話をします。

私は今、社労士として自営業をしています。

働く時間を自分で決められます。

最初は、これがとても魅力的に感じました。

実際にやってみると、逆でした。

仕事の時間とそれ以外の時間を分けないと、生産性が落ちます。

だらだらと仕事をしてしまう時間が増えます。

誰かが決めてくれるわけではないので、自分で宣言して区切るしかありません。

時間の自由は、思っているほど楽ではないということです。

会社が従業員に時間の自由を渡すというのは、この自己管理を丸ごと本人に預けるということでもあります。

そこを分かったうえで渡すなら構いません。

ただ、渡せば喜ばれるだろう、という発想で入れる制度ではないと思っています。

まとめ

柔軟な働き方は、時間と場所に分けて考えてください。

そして、手をつける順番は場所からです。

時間まで一緒に自由にすると、効果が打ち消されるという研究があります。

在宅勤務がうまくいかない会社の多くは、場所ではなく時間の管理でつまずいています。

働く人が挙げる課題の1位も「仕事と仕事以外の時間の切り分けが難しい」ことでした。

フレックスタイム制の導入率は7.2%です。

多くの会社が時間を固定して運用していますが、それは遅れているのではありません。

シフトで動くサービス業は、時間が固定されている時点で、この話の正解の側にいます。

残っているのは場所だけです。

在宅勤務ができなくても、フリーアドレス、店舗間の応援、Off-JTという手があります。

まずは、自社の座席が固定されている理由を一度考えてみてください。

そこに理由がないなら、そこから動かせます。

働き方をアセントさせる一歩は、時間をゆるめることではなく、場所をひらくことかもしれません。

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