治っていないのに復職しようとする人がいます。焦らせているのは、会社の制度かもしれません。
メンタル不調で休職している従業員から、復職の申し出がありました。
「もう治りました」
そう言われたとき、会社はどう判断すればいいでしょうか。
今日は、この場面の話をします。
仕事が原因の場合は労災の話になりますので、ここでは仕事以外が原因の休職を前提にします。
決して珍しい話ではありません。
令和6年の労働安全衛生調査では、メンタル不調により連続1か月以上休業した、または退職した労働者がいた事業所は12.8%でした。
8社に1社です。
まず、休職期間は就業規則で決めます。
病気やけがで長期間働けないとき、どのくらい休めるのか。
これは就業規則で定めます。
法律に「何か月以上にしなさい」という定めはありません。
会社が決めることになります。
実務では6か月程度としている会社が多い印象です。
もっと長い会社もあれば、短い会社もあります。
メンタル不調は3か月では回復しないことが多いので、6か月程度は設けておきたいところです。
もし就業規則に休職の規定がないなら、そこは急いで見直してください。
規定がなければ、休ませる根拠も、期間の区切りもありません。
なお、休職中は給与が発生しませんが、社会保険料は発生し続けます。
本人負担分は給与から控除できないので、別途徴収することになります。
会社負担分は、休職が長引くほど積み上がります。
期間を決めるときは、ここも計算に入れてください。
満了が近づくと、本人は焦ります。
多くの会社の就業規則では、休職期間が満了しても復職できない場合、退職扱いとなります。
ここが、今日いちばんお伝えしたい部分です。
満了が近づくと、本人はこう考えます。
「今復帰しないと、会社を辞めることになる」
体調が戻っていなくても、申し出るしかなくなります。
そして一度復帰したものの、仕事に耐えられず、また休む。
結局は退職になり、本人の体調はさらに悪化する。
これが最悪のパターンです。
無理な復職の申し出は、本人の判断ミスではありません。
焦らせているのは、会社の制度かもしれません。
そう考えると、対応の仕方も変わってきます。
メンタル不調は、見た目では分かりません。
骨折であれば、治ったかどうかはある程度分かります。
メンタル不調は、そうではありません。
本人が「治りました」と言い、外見にも異常がない。
会社としては、判断のしようがありません。
それで復職させると、こうなることがあります。
仕事の効率が明らかに落ちている。
遅刻が増える。
勤務中に居眠りをしてしまう。
気分の浮き沈みが激しい。
とても仕事ができる状態ではなかった、と後から分かるわけです。
だからこそ、本人の申告だけで判断してはいけません。
主治医の診断書だけでは、足りません。
最低限やるべきなのは、主治医の診断書を取ることです。
本人が通っている医療機関で、就労可能な状態かを確認してもらいます。
これは必ず行ってください。
ただ、正直に言えば、それでも不安が残ります。
理由は明確です。
主治医は、あなたの会社の仕事を知りません。
事務仕事ならできるが、長時間の立ち仕事は難しい。
車の運転をともなう業務は避けたほうがいい。
こうした個別事情を知らないまま、診断書が書かれます。
これは私の感覚で言っているのではありません。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に、はっきり書かれています。
主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らない。
こういう趣旨の記載です(職場復帰支援の手引き)。
日常生活が送れる状態と、その会社で働ける状態は、別だということです。
会社の仕事を伝えてから、診断書をもらってください。
では、どうするか。
会社側で診断書のフォーマットを作ります。
そこに、自社の業務内容を具体的に書きます。
1日8時間の勤務ができますか。
立ち仕事はできますか。
車の運転はできますか。
配慮が必要なことはありますか。
こうした項目を並べて、主治医に記入してもらうのです。
すると、主治医の側も判断材料を持てます。
「この会社はこういう仕事なのか」
「それならここは無理だ」
「この部分は問題ない」
こうして、はるかに具体的な意見が返ってきます。
なお、この費用は会社が負担してください。
本人に「もう一度取ってきて」と言うだけでは、負担も気持ちも重くなります。
そして、これも私の思いつきではありません。
先ほどの手引きには、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報を提供し、就業可能な回復レベルに達していることを主治医の意見として提出してもらうとよい、という趣旨の記載があります。
国も、同じことを推奨しています。
会社が直接、主治医に会いに行く必要はありません。
会社の担当者が主治医と面談する、という方法を勧める文書を見かけることがあります。
私は、あまりおすすめしていません。
まず、本人の同意なしに主治医が話をすることはできません。
病状は個人情報です。
そして、医学の知識がない担当者が話を聞きに行っても、得られるものは限られます。
同じ手間をかけるなら、指定のフォーマットを作って、書面で丁寧にお願いするほうが確実です。
産業医がいる会社であれば、産業医の意見も必ず併せて聞いてください。
ただ、産業医の選任義務があるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です(労働安全衛生法13条)。
多くの中小企業には、産業医がいません。
産業医がいない会社ほど、この指定フォーマットが効きます。
復職を断ることにも、リスクがあります。
ここまで「慎重に判断してください」と書いてきました。
ただ、逆方向のリスクにも触れておきます。
復職を断ることにも、リスクがあります。
最高裁は、片山組事件(最高裁平成10年4月9日判決)でこう判断しています。
職種や業務内容を限定せずに雇用された労働者の場合、現に就いている業務ができなくても、その能力・経験・地位、会社の規模や業種、配置や異動の実情などから、配置される現実的可能性がある他の業務について労務を提供できるのであれば、債務の本旨に従った履行の提供にあたる。
つまり、こういうことです。
元の仕事が100%できないことだけを理由に復職を拒むと、争いになる可能性があります。
職種を限定せずに採用した従業員なら、他に任せられる仕事がないかを検討する必要があります。
慎重に判断することと、機械的に断ることは違います。
診断書で得た情報をもとに、できる業務とできない業務を切り分けてください。
その記録が、あとで会社を守ります。
焦りを減らす材料は、実はあります。
最後に、冒頭の話に戻ります。
本人が無理をするのは、休職期間の満了が怖いからでした。
ここで知っておいてほしい制度があります。
傷病手当金です。
健康保険から、給与のおおむね3分の2程度が支給されます。
そして令和4年1月から、支給期間は支給開始日から通算して1年6か月になりました。
途中で復帰して支給されない期間があれば、その分は繰り越されます。
つまり、休職期間を6か月としている会社では、こうなります。
傷病手当金はまだ1年分残っているのに、会社の制度では退職になる。
このギャップが、本人を追い詰めています。
もちろん、無制限に休ませることはできません。
会社負担の社会保険料も積み上がります。
それでも、就業規則の休職期間を決めるときに、この制度を知っているかどうかで設計は変わるはずです。
復職後に再発した場合の通算規定を置く。
段階的に業務量を戻す試し出勤の仕組みを作る。
打ち手はいくつもあります。
まとめ
メンタル不調の休職者から復職の申し出があったとき、本人の申告だけで判断しないでください。
まず、主治医の診断書を取ります。
ただ、それだけでは足りません。
主治医は会社の業務内容を知らないからです。
厚生労働省の手引きも、主治医の判断は日常生活の回復程度によるものが多く、業務遂行能力まで回復しているとは限らないと指摘しています。
そこで、自社の業務内容を書いた指定フォーマットを作り、費用は会社が負担して、もう一度診断書をもらってください。
産業医がいる会社は、産業医の意見も併せて聞いてください。
一方で、断ることにもリスクがあります。
片山組事件のとおり、職種を限定せずに雇用した場合は、他に任せられる業務がないかを検討する必要があります。
そして根本にあるのは、休職期間の設計です。
傷病手当金は通算1年6か月支給されます。
休職期間が6か月の会社では、まだ受給できるのに退職になる従業員が出ます。
無理な復職を止めるだけでは、来年も同じことが起きます。
一度、自社の休職規定を開いて、期間の根拠を確かめてみてください。
働き方をアセントさせる一歩は、無理をさせない制度を先に用意しておくことだと思います。
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