作っただけでは、誰も見に来ません。就業規則も同じです。
お盆休みを使って、事務所の公式LINEを作っていました。
前から作りたいと思いながら、ずっと後回しにしていたものです。
ようやく形になってきたので、お盆明けに公開します。
登録していただいた方には、就業規則のチェックリストをお渡しします。
ただ、今日はその告知をしたいわけではありません。
作っている途中で、気づいたことがありました。
それが、労務の話とまったく同じ構造だったのです。
コンテンツはありました。入り口がなかっただけです。
公式LINEの画面下には、アイコンを並べることができます。
私は6つ置きました。
そのうち2つが、ホームページのブログと、ニュースのページへのリンクです。
ここで気づきました。
このブログもニュースも、前から書きためていたものです。
新しく作ったわけではありません。
読んでもらえていなかった理由は、中身の問題ではありませんでした。
そこへたどり着く道が、なかっただけです。
コンテンツがなかったのではありません。入り口がなかったのです。
ホームページに問い合わせフォームを置いても、そこへ来てもらえなければ何も起きません。
フォームを作った時点で、仕事を終えた気になっていました。
これは、就業規則でもまったく同じことが起きています。
ここからが本題です。
就業規則を作った会社は多いです。
労働基準監督署に届け出もしています。
では、その就業規則を、従業員は読んだことがあるでしょうか。
「社長の机の引き出しに入っています」
「総務のキャビネットにあります」
こういう会社は、実際にあります。
作りました。
届け出ました。
そして、誰も見ていません。
公式LINEを作る前の私のホームページと、まったく同じ状態です。
周知していない就業規則は、拘束力を失います。
ここが、マーケティングの話と決定的に違うところです。
就業規則の場合、届いていないことに法的な効果があります。
労働基準法106条1項は、就業規則を労働者に周知させなければならないと定めています。
これに違反すると、30万円以下の罰金です(労働基準法120条)。
ただ、罰則より重いのはこちらです。
最高裁は、フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日判決)で、こう判断しました。
就業規則が法的な拘束力を持つためには、その内容を事業場の労働者に周知させる手続がとられていることが必要である。
この事件では、懲戒解雇の根拠となる就業規則が周知されていませんでした。
結果として、その懲戒処分の根拠が失われています。
周知していない就業規則は、そもそも従業員を拘束しません。
つまり、こういうことになります。
いざ問題が起きたとき、会社は自分で作ったルールを使えません。
服務規律も、懲戒の規定も、根拠として持ち出せなくなります。
高いお金をかけて作った就業規則が、キャビネットの中で効力を失っているわけです。
周知の方法は、3つに決まっています。
では、どうすれば周知したことになるのでしょうか。
方法は法令で決まっています(労働基準法施行規則52条の2)。
ひとつめが、常時各作業場の見やすい場所に掲示するか、備え付けること。
ふたつめが、書面を交付すること。
みっつめが、電子データで記録し、各作業場に労働者がいつでも内容を確認できる機器を設置することです。
社内のイントラネットや共有フォルダに置く方法は、みっつめにあたります。
ただし、注意点があります。
パスワードが分からない。
そもそも従業員が使える端末がない。
こういう状態では、置いてあっても周知したことにはなりにくいです。
「どこかにあるはず」では足りない、ということです。
「置いてある」と「届いている」は違います。
法令の要件を満たすことと、実際に読まれていることは別の話です。
キャビネットに置いておけば、形式上は備え付けになります。
でも、その存在を知らなければ、従業員は取りに行きません。
私のホームページのブログと同じです。
入り口は、作った側からは見えません。
作った本人は、どこに何があるか全部知っています。
だから「ちゃんと置いてある」と思ってしまいます。
見えていないのは、いつも受け取る側のほうです。
入社時に説明しているか。
改定したとき、どこがどう変わったか伝えているか。
分からないことがあったとき、誰に聞けばいいか決まっているか。
ここまでやって、はじめて届きます。
入り口は、思っているより地味なところにあります。
公式LINEで置いたアイコンは、特別なものではありません。
問い合わせ窓口。
就業規則のチェックリスト。
ブログ。
ニュース。
どれも新しく作ったものではなく、既にあるものへの案内板です。
会社の労務でも同じことが言えます。
就業規則の要点を1枚にまとめて配る。
有給休暇の申請方法を、休憩室に貼る。
入社時の書類に、就業規則の保管場所と閲覧方法を書いておく。
どれも地味です。
ただ、この地味な案内板がないから、せっかくのルールが使われていません。
新しい制度を作る前に、既にあるものへの入り口を確認してください。
多くの場合、足りないのは制度ではなく案内板です。
よくできた資料ほど、読まれずに眠っています。
公式LINEで何を配信するか、しばらく迷っていました。
ひとつ、いいものを見つけました。
厚生労働省の「働き方改革特設サイト 中小企業も働き方改革」です(取組事例)。
実際に働き方改革に取り組んだ中小企業の事例が並んでいます。
従業員数10〜29人、30〜49人といった規模別に見られるので、自社に近い会社を探せます。
これがよくできているのに、ほとんど読まれていません。
国が作った資料は、たいていそうです。
内容は悪くありません。
やはり、入り口がないのです。
だったら、私が案内板になろうと思いました。
読みやすく崩して配信すれば、少しは広がるかもしれません。
ちなみにLINEの国内月間利用者数は、2025年12月末時点で1億を超えています(LINEヤフー株式会社)。
道を作る場所としては、悪くないと考えました。
まとめ
作っただけでは、誰も見に来ません。
これは、ホームページでも就業規則でも同じです。
就業規則の場合は、届いていないことに法的な効果があります。
労働基準法106条の周知義務に違反すれば、30万円以下の罰金です。
それ以上に重いのは、周知していない就業規則は従業員を拘束しない、という点です。
フジ興産事件で、最高裁がそう判断しています。
いざというときに、自社のルールを根拠にできません。
周知の方法は、掲示または備え付け、書面の交付、いつでも確認できる電子データの3つです。
ただし、形式を満たすことと、実際に読まれていることは違います。
存在を知らせて、変更を伝えて、聞ける人を決める。
ここまでやって、はじめて届きます。
新しい制度を作る前に、既にあるものへの入り口を見直してください。
足りないのは、たいてい制度ではなく案内板のほうです。
働き方をアセントさせる一歩は、新しく作ることよりも、届いていないものを届けることかもしれません。
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